小正準レプリカ交換法のトンネル時間による効率評価

by 伊藤 楓馬 (物性理論研究室M2)
本研究では、小正準レプリカ交換法(NVEレプリカ交換法)の効率をトンネル時間により調査した。
相転移を起こす系の調査には、厳密な計算よりも正準モンテカルロ法のような数値計算が用いられることが多い。数値計算により、厳密解が得られていない系の物理量を計算することが可能になるためである。しかし、1次転移系のように転移点付近で異なる安定状態を持つ系においては、計算に必要な時間が非常に大きくなることが知られている。計算時間が大きくなるのは、サンプルが異なる安定状態を行き来するためには、その間にあるエネルギー障壁を超なければならないためである。この困難を解決するために、小正準レプリカ交換法が考案された。従来の正準モンテカルロ法との相違点は、小正準集団に基づく重み因子を用いている点、レプリカ交換というプロセスが追加される点である。これにより、サンプルが異なる安定状態を容易に行き来できると考えられている。

上記のメリットを示唆する先行研究が複数存在する一方で、計算コストの小ささを直接示している研究は、調査した範囲では存在しなかった。そこで本研究では、計算コストと密接に関係する指標であるトンネル時間を用いて小正準レプリカ交換法を評価した。その結果、1次転移を示すモデルである2次元q状態potts模型(q=10)において、粒子数が大きい場合は、従来の正準レプリカ交換法よりも小正準レプリカ交換法の方が計算コストが小さいことが明らかになった。したがって、1次転移系の調査において、小正準レプリカ交換法は効率が高い有力な手法であると考えられる。