分子動力学法を用いたRvSAHS1タンパク質の構造転移現象の解明

by 宮澤 和久 (物性理論研究室M2)
 近年の計算科学技術の進歩により、分子の運動を計算で求めることができるようになってきている。生体分子の研究では、実験では装置の性能上の理由から一分子レベルでの詳細な観測は難しく、理論でも多くの原子が複雑な構造をとると解析的に説明することは不可能である。分子シミュレーションは理論と実験を仲介しうる方法であり、これを用いることは生体分子の物理を理解するために重要である。
クマムシはコケなどに生息する、肉眼では見つけられないほどの小さな動物である。クマムシは水分の多い環境で生命活動を行う一方で、周囲が乾燥すると樽のような形状に移行し、再び水分が得られるまで生命活動を止める。また樽状態のクマムシは極端な温度環境下や真空中に置かれたり強度の放射線を浴びても、給水することで活動状態に復帰することができる。これらの性質からクマムシは長期間にわたる組織の保存や宇宙生物学的に注目されている。一方で、極限環境下でクマムシの細胞が守られる分子メカニズムは謎に包まれている。
近年乾燥に合わせて発現するクマムシ特有のタンパク質RvSAHS1が見つかった。クマムシの細胞を守ると考えられているものの、このタンパク質の性質や水溶液中での振る舞いが不明である。そこで私は分子動力学シミュレーションを用いてRvSAHS1の水溶液中での振る舞いを探索した。