窒化鉄Fe4Nのスピン偏極伝導の理論的解析


by 古門 聡士 先生 静岡大学工
電子が持つ電荷とスピンの自由度を共に活用した、スピンエレクトロニクス素子の研究開発が近年急速に進展している。代表的な素子として、磁気抵抗効果を示 す強磁性トンネル接合(強磁性体電極/絶縁層/強磁性体電極[1])がある。この系では、スピン注入源である強磁性体電極の開発が急務となっている。ハー フメタリック強磁性体を電極とする接合は、室温の磁気抵抗比[2]が特別大きくない。一方、CoFeBを電極とした接合[3]は室温で世界最高レベルの磁 気抵抗比[2]を示した。
我々はさらに高効率の強磁性体電極を提案するため、CoFeBを参考に『磁性原子と軽元素からなる強磁性体』について考えた。磁性原子としてFeを考えた場合、強磁性状態のfcc-Fe[4]は、状態密度のスピン偏極率Pdos[5]がbcc-Feのそれの約2.3倍になる。これは、fcc-Feに関連した強磁性体で高スピン偏極伝導が起こる可能性を示唆する。
そこで我々はfcc-Feと軽元素を含む強磁性体として、ペロブスカイト型構造のFe4N(キュ リー温度761K)[6]に注目し、そのスピン偏極伝導を理論的に解析した[7]。特に今回は、絶対零度での電気伝導率のスピン偏極率P[8]を調べた。 電気伝導率はタイトバインディングモデルと久保公式を用いて得られる。そのモデルのパラメータは、第一原理電子状態計算(Vienna Ab-initio Simulation Package: VASP)のバンド構造を再現するように決められた。
結果として、Fe4Nの|P|は、bcc-Feのそれの5倍、fcc-Feのそれの2.5倍になった。このFe4Nの高スピン偏極伝導は、Nにより強められた3d軌道の伝導への寄与に起因する。Fe4Nは高効率のスピン注入電極になることが期待される。

参考文献

[1] S. Kokado et al., Phys. Rev. B 69 (2004), 132402; S. Kokado et al.,Appl. Phys. Lett. 79 (2001), 3986.
[2] 磁気抵抗比は100×(RAP – RAP)/RAPとして定義される。RP(RAP)は両電極が平行(反平行)磁化配列の時の抵抗値。磁気抵抗比が大きな素子は高感度磁気センサに成り得る。
[3] J. Hayakawa et al., Abstract of ISQM-TOKYO’05; J. Hayakawa et al., Jpn. J. Appl. Phys. 44 (2005), L587.
[4] fcc-Feの最安定状態は強磁性状態でない。For example, T. Hoshino et al., J. Magn. Magn. Mater. 272-276 (2004), 229.
[5] Pdos=(D – D)/(D + D)。ただし、D(D)はアップ(ダウン)スピンのフェルミ準位での状態密度。
[6] S. Nagakura, J. Phys. Soc. Jpn. 25 (1968), 488.
[7] S. Kokado et al., submitted to Phys. Rev. B; S. Kokado et al., submitted to phys. status solidi (c).
[8] P=(σ – σ)/(σ + σ)。ただし、σ)はアップ(ダウン)スピンのフェルミ準位での電気伝導率。