非平衡熱力学の基礎および最近の発展~不可逆過程の熱力学から拡張された熱力学まで~


by 有馬 隆司 先生(神奈川大学工学部)
2015年10月28日 16:15~
近年、非平衡現象に関する研究は多彩な発展を見せ、現代科学における重要な位置を占めている。非平衡現象に対して、熱力学的な立場からの研究は古くから行われており、代表的な非平衡熱力学として、EckartやMeixner, Onsager, Prigogineらによる不可逆過程の熱力学(TIP)[1]が広く知られている。ただし、TIPは局所的熱平衡の仮定に基づいており、この仮定を超えて記述さ れるような強い非平衡現象には適用できない。近年、TIPの問題を克服した理論として、拡張された熱力学(Extended Thermodynamics, ET)理論が提案されている[2]。この理論は、流体力学的物理量に加えて、散逸的物理量の時間発展も記述する理論である。数学的には対称双曲型偏微分方程式系であり、有限の伝播速度を予言する。適用範囲が重なる領域に対しては気体分子運動論と一致する。ET理論は、超音波伝播や衝撃波波面構造の解析、熱伝導問題などへと応用され、成果を挙げて いる。
以上のように、ET理論は非平衡熱力学として有望であると考えられるが、適用範囲が主に単原子分子希薄気体に限られていたため、研究の進展が滞っていた。しかし、最近、この困難を超えた多原子分子希薄気体や濃密気体にも適用できる理論の構築[3]や、流体力学的なゆらぎを含んだ理論の構築[4]が行われ、ET理論は今まさに発展中である[5]。
本講演では、まず、非平衡熱力学の基礎としての不可逆過程の熱力学を整理および検討する。そして、拡張された熱力学の考え方、いくつかの応用例を紹介する。また気体分子運動論との関連についても述べる。最後に、拡張された熱力学理論の最新の発展について議論する。

参考文献

  1. S. R. de Groot and P. Mazur: Non-equilibrium Thermodynamics (North-Holland, Amsterdam, 1963)
  2. I. Muller and T. Ruggeri: Rational Extended Thermodynamics (Springer,1998)
  3. T. Arima, S. Taniguchi, T. Ruggeri and M. Sugiyama, Continuum Mech. Thermodyn. 24, 271 (2011)
  4. A. Ikoma, T. Arima, S. Taniguchi, N. Zhao and M. Sugiyama, Phys. Lett. A, 375, 2601 (2011)
  5. T. Ruggeri and M. Sugiyama: Rational Extended Thermodynamics beyond the Monatomic Gas (Springer, 2015)